幸せになるために

「はぁ~、高校生の段階でそこまで将来のビジョンが見えていたんですね~」


思わず感嘆のため息が漏れてしまった。

オレの場合は「まだまだ就職なんて考えられないよなー。本を読むのが好きだし、司書の資格も取れるらしいから、あの大学のあの学部にでも行こうかなー」などとお気楽な考えで進学を決めてしまった。

まぁ、そこで図書館のバイトを始め、様々な情報を取得して、今の会社にたどり着いたんだから結果オーライだった訳だけど。


「早くから、社会人になる覚悟を決めてたってことですもんね。つくづく偉いよな~」

「いや……。ただ単に、一日も早く家を出たかっただけですから」

「ん?」


オレがクッキーを口に入れて咀嚼したのと同時の発言だったので良く聞こえず、ワンモアプリーズの意味であずまさんに向けて右耳を傾けてみたけど、再度口にするつもりはないようだった。


「そのコンテストに優勝すれば賞金が手に入り、少なくとも一年間は仕事にありつけますからね。さらに、それがきっかけで他の仕事も回してもらえるようになるかもしれない、と期待しまして」

「…なるほど~」

「まぁ、そのギャラだけで食べて行くのは難しいだろうから、デビューしたらしたでどっちみち兼業する事になるだろうとは思っていましたけど。かといって正社員としてフルタイムの仕事は厳しいだろうから、その場合は元々バイトしていた店に引き続き雇ってもらおうかなと」

「あ、高校生の時からバイトしてたんですね」

「ええ。近所のファミレスで」


そこであずまさんはちょっと得意げな表情になった。


「3年間で、100万ちょっと貯めましたよ」

「えっ。えぇー!すげー!」


こちとら社会人だって、その期間でそれだけの金額を積み立てるのは容易じゃないのに。

ホント、あずまさんて頑張り屋さんなんだな~。


「で、念願かなって、そのコンテストで優勝を勝ち取る事ができました」

「おおー!」


自分がドヤ顔を作ってしまったこと、オレが立て続けに歓声を上げたことに照れくさくなってしまったのか、あずまさんはちょっと顔を赤らめながら話を進めた。


「その時点で就職活動をする意味がなくなったので、求人票を閲覧するのは止めました。推薦してもらっておきながら、すぐに辞めたりしたら会社にも学校にも迷惑をかけてしまいますからね」