幸せになるために

「ホント、すごい事ですよね~!」


あえて口には出さなかったけど、芸術的な分野の場合、ただ努力を重ねれば大成できるってものでもないんだよね…。

もう、生まれもっての感性が、行く末を大きく左右するシビアな世界だと思う。

極端に言えば、ある日突然ふと思い立ち、気まぐれに創造した物が、長年努力を重ねて来た人の作品よりも断然優れている、なんて事もあり得るだろう。

できちゃう人は、初っぱなからできちゃうもんなんだよね。

だからといってもちろん、オレらみたいな凡人は何をしても無駄、という意味ではない。

奥深く眠る才能を目覚めさせたり、蕾のままの感性を大きく花開かせる為には、やはり継続して行う事が必要だから。

もしかしたら一生、陽の目を見る事はできないかもしれないけれど、それでも良いという覚悟があるのならば。

また、反対に、スタートダッシュが素晴らしくても、そこで満足してしまった人は、どんどん新しい才能に追い抜かされて行ってしまうだろう。

とにもかくにもあずまさんは、自分の才能で食べて行く事を目標にし、元々たぐいまれなる才能の持ち主であった上に、それに傲る事なく真摯に鍛練を積み重ねた結果、今の地位まで登り詰める事ができた、と。

そしてこれからも、ますます高み目指して突き進んで行くのだろうと思う。


「あ、そうだ。すみません、話が途中だったのに、無理やり変えてしまって」


遅ればせながらその事に気付き、オレは慌てて謝罪した。


「えっと…。確かコンテストに応募してみる事になったっていう所まで話して下さってたんですよね?」

「…ええ」


新たなチョコを口に含んでいたあずまさんは、それを飲み込むために1拍遅れて返答する。


「優勝賞金が30万円、プラス、その会社が出版している女性向けファッション雑誌の各コーナーで一年間、イラストを担当させてもらえるっていう副賞付きのコンテストなんですけど」

「へぇー」


そういうのがあるんだー。


「前々から興味はあったんですけど、それまで自分が投稿していた場所とは何かもうレベルが違いすぎるというか…。気後れしてしまって、なかなか挑戦できなかったんですよ」


オレはコーヒーをすすりながらフムフム、という感じで頷く。


「でも来年からはいよいよ社会人だし、高校卒業と同時にデビューできれば、働きながら創作活動に勤しまなくても済むよな、という考えに至りまして。それも就職活動の一環と考えて、応募してみる事に決めたんです」