幸せになるために

好きになってしまったものは仕方がない。

周りへの配慮を忘れずに、節度を守って付き合って行けばそれで良いと思う。

だけど何だか自分に当て嵌められたら否定せずにはいられなかった。

もうちょっと軽い感じで、ボケに対してのツッコミ的なニュアンスで言い返せば良かったかな、と思う。


「ただ、職場の人間関係はもう言うことなしなんだけど、唯一のネックは給料がすんごく安いって事ですかね」


沈黙が怖いので、オレは慌てて会話を再開した。


「それこそ、時給何百円からのスタートですから」

「そうなんですか?」


「ええ。新人の時は手取りで10万円台半ばでした」


オレは実家暮らしだったから何とかやって行けたけどさ。


「ただ、年々わずかずつではありますが昇給して行きますし、雀の涙にプラスアルファくらいのボーナスももらえるんですけどね。あと、社内での研修や試験に挑戦して合格点をもらえれば昇進もできる仕組みなんです。それで今は一応チーフの肩書きが着いてて、それに伴って役職手当てなんかももらえちゃってたりして」

「へぇ~!すごいじゃないですか」


ティーカップと、おそらく自分が普段使いしているのであろうマグカップにコーヒーの粉を入れて、ポットの湯を注いでいたあずまさんは声だけで驚きを表現した。


「それでも、同年代の男性と比べたらまだまだ安月給なんですけどね」


思わず自嘲してから、続ける。


「でも、やりたかった仕事に就けて、どうにかこうにか暮らしていけるくらいの賃金をもらえている訳ですから、自分としては充分満足です」

「それに、そういう雇用形態なら会社で社会保険に入れてもらえるでしょ?」


出来上がった二人分のコーヒーをトレイに乗せて、あずまさんが戻って来た。

飲み物の他に、一口チョコとクッキーが盛り付けられた小皿があり、それらをオレと自分の席の前に置いていく。


「あ、ありがとうございます」


礼を述べてからあずまさんの問いかけに対し返答した。


「そうですね。年金と健康保険は会社と折半です」

「なら良いじゃないですか。羨ましいよな。俺は要するに自営業ですからね。全額負担ですよ」

「あ、そうだ。オレの話はもう良いですから、あずまさんのお仕事について聞かせて下さいよ」


またもや本来の目的を見失うところだった。