幸せになるために

「あ、すみません一人で勝手に盛り上がっちゃって」


そこでハタと我に返り、謝罪した。

あずまさんにだけ素性を明かさせて、自分だけしらばっくれるってのはフェアじゃないよね。


「実はオレ、図書館に勤めてるんですよ」

「えっ。そうだったんですか」


あずまさんは若干目を見開いて言ったあと、続けた。


「てことは、公務員ですよね?すごいなー」

「あ、いや。違うんです」


オレは慌てて訂正する。


「オレの勤める図書館は市が民間企業に運営を委託しているんですけど、オレはその民間の方に雇われている社員でして…。分かりやすく言うと、ようするに派遣です」

「へぇ~。そういうシステムがあるんですか。司書の資格を持ってて、公務員試験に受からないと図書館では働けないのかと思ってました。まぁ、バイトさんはまた別枠でしょうけど」

「あ、一応オレ司書課程のある大学出てるんで、資格自体は持ってるんですよ。ただ、図書館司書が公務員として採用されるっていうのは、今の時代かなり難しいんじゃないのかな…」

「そうなんですか?」

「ええ。ある年齢より上の方ならそういう立場の方も大勢いますけど、俺達世代になるともう全然入り込む余地がなくなっちゃってて」

「ん?どういう事ですか?」

「『公立図書館の司書』っていうのは、一度その立場になったらよっぽどの事が無い限り定年まで勤め上げる方がほとんどなので、当然、新規採用枠が少なくて、かなりの狭き門なんですよ」


どう説明したらきちんと伝わるか、迷いつつ言葉を繋ぐ。


「オレ自身が今まで見聞きしてきた情報を元に…あ。オレ、元々学生時代に、長い休みの間と土日祝だけ別の図書館でバイトしてたんです」


夜間返却口に溜まっていた図書を返却処理したり、配架したり、書庫に保管してある資料の貸し出し希望が出たらダッシュで取りに行ったり。

窓口業務には就かず、あくまでも裏方だったけど。


「その時に出会った方達から聞いた体験談を元に、オレの勝手な推察も交えて、架空の『市の職員として図書館で働く女性Aさん』を作り上げて説明しますけど、まず、司書を目指すくらいだからそのAさんは小さい時から本が大好きだった訳ですよね」

「ええ」

「それで、ぜひとも図書館で働きたいと、色々と調べていくうちに、資格は取れても働く場所を探すのが難しい、あっても間口がとても狭いという事に気づきます」

「はい」