「それ言ったらオレだって同じ理屈ですよー。しかもこっちは4万ですよ、4万!」


話を聞きながらお隣さんは6万円台なんだ、とさりげなく新たな情報をインプットしていた。

103号室を拠点として、離れるにしたがって金額が上がって行くとは聞いていたんだよね。

でも、オレには関係ない事だし、わざわざどの部屋がいくらかってのは聞かなかった。

そもそも、すでに借り手がいる部屋の家賃を不動産屋さんが他人に詳しく明かして良いのかどうかも知らない。

個人情報保護の部分で引っ掛かったりするのかな、なんて。

それはさておき、少なくともお隣さんとは、年間24万円以上の差がつくって訳だ。

ふっふっふ。

やっぱりここに決めて正解だった。


「いやでも、事故のあった部屋に住むのと隣の部屋に住むのとでは精神的に全然違うでしょう?」


しかしあずまさんは素直に納得できないらしく、さらに話を引っ張る。


「なかなか越えられない壁だと思いますよ」

「いやいや、それを考慮して下さっての4万円ですから。それに、リフォーム済みで事故の痕跡は完全に消えてる訳だし。オレは全然気になりませんよ」

「……やっぱメンタル強いですね」


キッパリと言いきったオレに対し、これ以上この話を続けても無意味だと思ったのか、あずまさんは締めくくるようにそう言った。

と、次の瞬間、オレのお腹が『グ~』と鳴る。


「あ、じ、実はまだ昼ご飯を食べてなくて」

「え。そうだったんですか?」


コントみたいな流れに、思わず赤面しながらそう言い訳すると、あずまさんはちょっと目を見開きながら謝罪した。


「何かすみません。お引き止めしちゃって」

「そ、そんな。こちらから呼び止めたんですから、お気になさらずに」


オレは慌てて返答した後、続けた。


「じゃ、そういう訳ですので。これからよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。それではまた」

「はい、失礼しま~す」


お互いに別れの挨拶を述べながら、あずまさんは一度閉じていたドアを再び開き、オレは自分の部屋に向かって歩き出した。