幸せになるために

オレも大満足だ。


「あ、そうだ」


すると聖くんは何かを思い出したように声を上げ、オレの顔を覗き込んで来る。


「あのね、お兄ちゃん」

「ん?」

「ちょうちょ結びのやり方教えてほしいの」


言いながら、聖くんは絵本の表紙に置いていた手を滑らせた。


「こういうの」

「あ~、はいはい。これね」


三太くんを取り囲むようにしてたくさんのプレゼントが空中に舞っているのだけど、その中の、緑の包装紙と赤いリボンでラッピングされている物を指差して聖くんは続ける。


「ぼく、ヘタクソだから、ちゃんと結べるようになりたいんだ~」

「ん、分かった。ちょっと待ってて」


オレは絵本をテーブル上に置いて立ち上がり、キッチンへと向かった。

流し台の端の一番上の引き出しを開け、そこに入れておいた荷造り紐を取り出す。

引っ越しの準備をする時に買ったんだけど、さほど使う場面がなく、まだまだ残っているのであった。

新聞は取ってないし、小説は単行本になってから読みたいから雑誌も買ってないし、紐でまとめるような紙ゴミってのは出ないんだよね。

でも捨てるのは忍びなくて、いつかまた活用する日が来るであろうと信じ、保管しておいたのである。

その日は以外と早く訪れたという訳だ。

オレはついでにそこにあったハサミも手にして聖くんの元へと戻った。


「そんなに難しくないよ」


言いながら、リモコンを引き寄せ、適当な長さに切った紐を裏側に渡して実演を開始する。


「まず一回縛ってね、そして片方を輪っかにして、もう片方をぐるっと巻き付けて…」


その間、聖くんはオレの手元を凝視していた。


「ほ~らできた。簡単でしょ?」


オレは結び目をほどくと、リモコンと紐を聖くんに差し出す。


「やってごらん?」

「うん…」


聖くんはおそるおそる、という感じでそれを受け取り自分の腿の上に置くと、紐に指をかけ、先ほどのオレのやり方を再現し始めた。


「んと、一回きゅっとして、わっかをつくって…」

「そうそう」

「そしてこっちをぐるってやってここに通して…」

「あ。その時に、こっちをしっかり持ってないとほどけちゃうよ?」

「う、うん…」


手付きはたどたどしく時間はかかったけれど、無事、綺麗なリボンの形が出来上がった。