幸せになるために

「辺りはすっかり明るくなっていました。【もしかしてあれは夢だったんだろうか?】そう思っていると、お隣からラジオ体操の音楽が聞こえて来たので、三太くんはびっくりしながらいそいでお部屋を飛び出し、お庭に出ました」


聖くんはポカンとしながら聞いている。


「『おじいちゃん!』三太くんは垣根越しに声をかけます。『おや、三太くんおはよう』『ラジオ体操して平気なの?足はなおったの?』『え?何のことだい?』音楽に合わせて飛びはねながら、おじいさんはとても不思議そうに聞き返しました。『…ううん。何でもない』三太くんはそう返事をすると、とぼとぼと自分のお部屋へと戻ったのです」

「うう~…」


聖くんも、とても残念そうに眉尻を下げ、そう唸り声を発した。


「そこで三太くんは枕元に、リボン付きの箱が置いてある事に気が付きました。そうです。クリスマスプレゼントです。悲しい気持ちがちょっとだけ消えて、三太くんはさっそくリボンと綺麗な紙を取って、中身を取り出しました。『あ!』思った通り、ラジコン飛行機の箱が出てきましたが、三太くんが声をあげたのはそれが理由じゃありません。三太くんは気付いたのです。『やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ!』」

「え?」


それまで三太くんに深く感情移入し、しょんぼりと項垂れていた聖くんは、その言葉に反応して弾かれたように顔を上げた。


「三太くんはやっぱり1日サンタだったのです。だって、箱にはちゃ~んと、トナカイがお鼻でつついた時の、まあるい跡がしっかりと、残っていたのですから……」


物語の余韻を味わえるよう、一拍置いてから、オレはゆっくりと本を閉じ「おしまい」と締めの言葉を口にした。


「わー!」


オチを知って、再びテンションの上がった聖くんは、そう声を発しながら体全体が揺れるほどの、盛大な拍手をしてくれたのだった。


「ゆめじゃなかったんだね~。さんたくんがんばったんだね~」

「そうだよー」

「えらいね~」


聖くんは絵本の表紙に描かれている、自分よりちょっとお兄ちゃんの三太くんの頭を、優しくなでなでした。

その様子に、オレの胸はキュンと疼く。


「……今のお話、楽しかった?」

「うん!すっごく楽しかった~」


その言葉に嘘偽りがない事は、心底満足そうな聖くんの表情を見れば明らかであった。