幸せになるために

聖くんを背後から急かすようにしながら歩を進め、彼がソファーに乗り上げたのを確認してからオレは足早に洗面所に向かった。

カゴをランドリーラックに戻し、再びリビングへと歩を進め、本棚の脇に立て掛けておいた紙袋を手に取る。

中身を出し、それを両手に持ちながら聖くんに近付いた。


「じゃ~ん!」

「えっ?」

「頑張った聖くんへのごほうび!これから、お兄ちゃんがクリスマスの絵本を読みま~す!」


ビクッとしながら振り向いた聖くんは、本を顔の横に掲げて解説するオレの姿を視界に納めた瞬間、まん丸だった目が三日月の形に変わり、キラキラと輝き出した。


「よっこいしょっと」


オレもソファーに腰かけ、聖くんに挿し絵が見えるよう本の角度に気を付けながら持ち、さっそく表紙をパラリと開く。


「それじゃあ、始めるよ?」

「うん♪」


満面の笑みを浮かべてこっくりと頷いたあと、聖くんはオレに体を密着させて、絵本を覗き込んで来た。


「『三太くんは1日サンタ』…」


オレはそれまでとは違う、読み聞かせモードの口調で朗読を始める。


「今日はクリスマスイブ。三太くんはケーキとプレゼントを楽しみにしながら、お庭で飼い犬のポチと遊んでいました。『う~んう~ん』すると、どうしたことでしょう。垣根の向こうから、何だか苦しそうな声がします」


そこで聖くんの横顔をチラリと盗み見ると、すでに物語の世界に入り込んでいるようで、視線は絵本に釘付けであった。


「『あれ?お隣のおじいちゃん、どうしたの?』『あ、三太くん。実は、足首をひねってしまって』『え~!たいへんだ~』おじいちゃんは一人暮らし。三太くんはお家の中から救急箱を取って来ると、慌ててお隣さんへと駆けて行きました。縁側に腰かけたおじいちゃんにしっぷを貼り、三太くんはホッと一安心したのですが、なぜかおじいちゃんはさらに困ったように言いました。『う~ん。う~ん。どうしようどうしよう』」


この本は過去に、定期的に開かれている図書館主催の読み聞かせ会で朗読したもので、そこに至るまでに繰り返し練習を重ねたので、暗唱できるほど内容は熟知している。