幸せになるために

一心不乱に浴槽や壁や床を磨き、この上ない達成感に包まれながら扉を開けると、聖くんはすでに掃除を終えたようで、そこにはいなかった。

ま、それは最初から分かりきっていた事だけどね。

ブーツを所定の場所に戻し、踏み台を脇によけて洗面台で手を洗ったあと、洗濯機をチェック。

すでに脱水まで完了していたので、中身を取り出しカゴに入れ、それを手にリビングへと向かった。


「それじゃ、聖くん、これでラストだよー」


ラグの上に足を伸ばして座り、ぼ~っと外を眺めていた聖くんに声をかける。


「ん?」

「お兄ちゃんがベランダに出るから、聖くんはここに立って…」


言いながら、床に広がる布団の端をめくって道を作り、窓辺に近付いて鍵を解錠した。

サッシを開け、カゴを床に置き、常備してあるサンダルをつっかけてベランダに出た所で振り向く。

そしてオレの動きと声に促され窓辺まで近付いていた聖くんに改めて指示を出した。


「カゴの中から一枚一枚お洋服を取って、お兄ちゃんに渡してくれる?」

「うん!」


聖くんは意気揚々と任務を開始した。

さすがにこれだけの量の洗濯物をカーテンレールに引っ掛ける訳にはいかないので、これに関しては外干しである。

冬物だから生地が厚いし、しかも今から干すとなると夜までに乾くかどうかちょっと微妙だけど、まぁ、その時はその時だ。

聖くんが渡してくれた物を空中でパシパシと振ってシワを取り、竿やランドリーハンガーに吊るして行く。

その連携プレーにより、作業は瞬く間に終了した。


「終わったー!」


室内に入り、鍵を閉めて布団を元の状態に戻した所で、オレは思わず両手を高く上げて天井を仰ぎ、ハイテンションで声を発した。

次いで、傍らに佇む、本日の功労者に視線を合わせる。


「ありがとね!聖くんのおかげで、すっごく早く終わったよー」

「ほんと~?」

「うん。お兄ちゃん、とってもとっても助かっちゃった!」

「良かったー」


ニコニコしながらオレを見上げる聖くんに、おそらくそれ以上であると自負する笑みを返しながら言葉を繋ぐ。


「じゃあね、聖くんはちょっと、ソファーの所で待っててくれるかな?」

「ん?なんで~?」

「それはまだ内緒。さ、座って座って」