幸せになるために

ぼやぼやしてる場合じゃなかった。

早く、次なる指示を出さなければ。


「じゃあ、お兄ちゃん、手を洗って来ちゃうから、その間にこのシートを棒の先にくっつけておいてくれる?」


トイレ掃除をしたからには手をきちんと除菌しておかなければ。


「やり方は分かるかな?」

「うん。だいじょうぶ」


すると聖くんはさっそくケースから、フローリング用のシートのパッケージを取り出した。

その迷いの無い動きに感心しつつ、オレは洗面所に移動すると、ハンドソープで2回、念入りに手を洗った。


「それじゃあね、今度はここをふきふきしてくれる?」


タオルで水気を拭き取ったあと、聖くんを洗面所に招き入れ、床を指差す。


「で、それが終わったらまたシートをゴミ箱にポイして、棒をこのプラスチックのケースに入れて、お手々を洗ってソファーで待っててくれるかな?その間にお兄ちゃんはお風呂の掃除をしちゃうから」

「んと、ぼく、お水が出せないかも…」

「え?あ、そうか」


そこでハタと気付く。

聖くんの身長では、蛇口を自在に操るのはなかなか厳しいかも。


「あ、ちょっと待ってて」


オレは洗面所を出てキッチンに向かうと、突き当たりの壁に寄せて置いておいた2段の踏み台を手に取った。

生活して行く上で、微妙に見えない、手が届かない、かといって脚立に乗るまでもない、という箇所にある物を確認したり取ったりしなくてはいけなくなる事が多々あり、そういう時に、この踏み台はとても重宝していた。

実家にいる時に愛用していた物で、アパートでもきっと必要になると思い持って来たんだけど、案の定色々な場面でお世話になっている。

ステンレス製で丈夫だし、一段一段幅があってしっかりと足を乗せられ、とても安定感がある。

これなら聖くんも安全に使用できるだろう。

また一つ活用法が見つかったという訳だ。


「お掃除が終わったらここにこうやって登って、お手々を洗ってね」


洗面所に戻り、踏み台をセッティングして聖くんに使い方を説明する。


「は~い」

「それじゃあ、お互いに頑張ろう!」

「がんばろう~!」


そう声を掛け合った後、オレはブーツを履いて浴室に入り、扉を閉めた。