幸せになるために

言いながら聖くんに近付き、棒を受け取ってシートを外すと、汚れた面を広げて見せた。


「わー。見てごらん、ほら。こんなに埃が付いてるよー」

「あ~。ホントだ~」

「でも、これでお部屋の中がキレイになったって事だもんね。今夜からもっと気持ち良く寝られるよー。聖くんのおかげだね!」

「んふ…」


照れくさそうにしている聖くんに微笑んだあと、オレはシートをゴミ箱に捨てて、プラスチックケースを手に取ると「じゃ、次はこっちね」と促しながら寝室を出た。

リビングを横切り廊下へと続くドアを開け放つと、戸口にケースを置いて膝を着き、再び棒を取り出す。

今度はフローリング用のシートに着け変え、それとハンディモップを手に立ち上がると、聖くんに新たなる指示を出した。


「じゃあね、まず、こっちの棒のモコモコとした部分で、壁や天井をサッサッと払ってくれる?そうすれば、そこに付いてる埃をキャッチできるから」

「うん」

「で、その時に取りきれなかった埃が下に落ちるハズだから、次にこっちの棒で、さっきと同じように床をふきふきして欲しいんだ。ここからスタートして、玄関のお靴を脱ぐ手前まで。その間、お兄ちゃんはトイレをお掃除しちゃうから」

「わかった~」


聖くんはお返事しながらオレが差し出したモップを受け取った。

しかし、先端を天井まで届かせようと背伸びした所でヨロ、とよろける。


「あっ。大丈夫?」

「う、うん。へいきだよ~」


聖くんはすかさず両足を踏ん張って耐えると、焦って声をかけたオレに笑顔で答えた。


「聖くんにはまだちょっと無理だったかな?」


モップはとても軽量で、最長2メートル近くまで伸びるので、オレはいつも余裕で作業していたんだけど、身長も握力も腕力も成人男性とは大きな開きがある5才児に、同じ事ができると思ったら大間違いだよね。


「ごめんごめん。じゃ、やっぱりこれはお兄ちゃんがやるから…」
「ううん。ぼく、がんばる!」


しかし、オレが詫びながらモップに手をかけた所で、聖くんは改めて柄の部分をはしっと両手で掴み、自分の胸に引き寄せた。


「お兄ちゃんはおトイレのそうじがあるんだから、これはぼくがやるよ」

「え?でも…」

「だいじょうぶ!ほら、ちゃんと、サッサッって、できるよ!」