幸せになるために

でも、他人に私物を触られるってのはすごく抵抗があるし、スタッフさんにお任せのプランだと料金もその分はねあがってしまう。

ケースだけ持って来てもらって自分で詰め込むってのもアリらしいけど、引っ越し当日にそんな事やってたらてんやわんやしてしまいそうだ。

やっぱ事前に自分でできるところまで荷造りしておいて、当日はそれと大物(家具や家電)をスタッフさんに運んでもらう、というシステムの方がオレにとっては都合が良い。


「別に、無理して全部持って行こうとしなくても、ここに残しておいても良いのよ?」


母さんはそう言ってくれたけど、おそらくオレの部屋は、いずれ兄ちゃん達の子どもが使う事になるハズ。

それがいつになるかは分からないけど、その時になって慌てて片付けに来るのは大変だし、また、子ども部屋としてではなくても、自分達の寝室の隣に空き部屋があれば新婚さんにとっては色々活用できて便利だろう。

だからこの機会に、部屋の中を綺麗にしておいた方が良いだろうと判断した。

立つ鳥跡を濁さずってね。

そんなこんなで月日は過ぎ、迎えた兄ちゃんの結婚式。

ちょっと肌寒いけど、良く晴れた秋の日に、地元の神社で粛々と行われた。

規模は小さいけれど終始穏やかで、ほんわかとした雰囲気が漂っていて、とても良い式だったと思う。

その後兄ちゃんは入籍、結婚御披露目パーティーと、人生の一大イベント目白押しで目まぐるしい数日間を過ごし、オレはオレで忙しかったのでじっくりと語らう暇もなく、あっという間に引っ越し当日となってしまった。


「じゃ、ちょっくら行ってきまーす」

「ああ」

「気を付けてね」

「すぐそこなんだから、ちょくちょく帰って来いよな」


父さん母さん、兄ちゃんにそれぞれ言葉をかけてもらい、笑顔で手を振りながらトラックに乗り込む。

走り出した車内で、思わずため息。

うまく、笑えていただろうか…。

まったくもう。

みんながちょっぴり泣きそうな顔なんかしてるから、オレの方もやばかったじゃないか。

たかが電車で数10分の距離に引っ越すだけなのに(しかも頻繁に里帰りする気満々なのに)我ながら大げさだとは思うけど。