「やっぱり比企さんもそう思いますよね?俺もホント、心底不思議でしたよ。兄と同じように俺だって、正真正銘、あの人の血を分けた息子だっていうのに…」
一瞬、『もしかして吾妻さんのお母さんは別に居るのだろうか?』という考えが頭を過ったのだけれど、今の言葉でそれは完全に否定された。
いや、実の子ではないから邪険にしても良いなんていう道理はない。
しかし、親が子どもにそういう態度を取る可能性として、とっさに思い浮かんでしまったのだった。
だけどそのような事実はなかった事を知り、むしろ、母親の行動の不可解さ、不気味さが増して、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
「でも…。少し大きくなってから、『ああ、これが原因だったのか』って、思った事があって…」
そこで吾妻さんは今さらながらに気付いたように、目の前のマグカップを手に取り、一口飲んでから続けた。
「実は母親は、兄が産まれた時点で、子どもはこの子一人で良いと考えていたみたいなんです。妊娠も出産もとても大変で、もう二度とあんな思いはしたくないと。その代わり、兄一人に愛情はもちろんお金もたっぷり注いで、大切に育てて行こうと。しかし…」
そこで、淡々と語っていた吾妻さんの表情に、微かな変化が現れた。
「4年後、母親は避妊に失敗して、俺を身ごもってしまったんです」
だんだんと紅潮してくる顔色と比例するように、口調も徐々に熱くなって来る。
「大いに戸惑ったようだけれど、堕胎という選択肢はなかったようです。俺の為と言うよりも、世間体を気にしただけだと思いますけどね。しかし、望まぬ妊娠だったというのがストレスになり、身体に悪影響を及ぼしていたんでしょうか?第二子なのに、兄の時よりもさらにつわりがひどく、しかもかなりの難産の末、ようやく俺を産み落としたようで」
「それは…どこから仕入れた情報なの?」
「小学6年生の時に、隣の市に住んでいた母方の祖母が病気で入院しまして、一人で見舞いに行った際に、何故か突然そういう話になったんです。結局その病が原因で、それからまもなく、祖母は亡くなってしまったんですけどね」
「そうなんだ…」
一瞬、『もしかして吾妻さんのお母さんは別に居るのだろうか?』という考えが頭を過ったのだけれど、今の言葉でそれは完全に否定された。
いや、実の子ではないから邪険にしても良いなんていう道理はない。
しかし、親が子どもにそういう態度を取る可能性として、とっさに思い浮かんでしまったのだった。
だけどそのような事実はなかった事を知り、むしろ、母親の行動の不可解さ、不気味さが増して、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
「でも…。少し大きくなってから、『ああ、これが原因だったのか』って、思った事があって…」
そこで吾妻さんは今さらながらに気付いたように、目の前のマグカップを手に取り、一口飲んでから続けた。
「実は母親は、兄が産まれた時点で、子どもはこの子一人で良いと考えていたみたいなんです。妊娠も出産もとても大変で、もう二度とあんな思いはしたくないと。その代わり、兄一人に愛情はもちろんお金もたっぷり注いで、大切に育てて行こうと。しかし…」
そこで、淡々と語っていた吾妻さんの表情に、微かな変化が現れた。
「4年後、母親は避妊に失敗して、俺を身ごもってしまったんです」
だんだんと紅潮してくる顔色と比例するように、口調も徐々に熱くなって来る。
「大いに戸惑ったようだけれど、堕胎という選択肢はなかったようです。俺の為と言うよりも、世間体を気にしただけだと思いますけどね。しかし、望まぬ妊娠だったというのがストレスになり、身体に悪影響を及ぼしていたんでしょうか?第二子なのに、兄の時よりもさらにつわりがひどく、しかもかなりの難産の末、ようやく俺を産み落としたようで」
「それは…どこから仕入れた情報なの?」
「小学6年生の時に、隣の市に住んでいた母方の祖母が病気で入院しまして、一人で見舞いに行った際に、何故か突然そういう話になったんです。結局その病が原因で、それからまもなく、祖母は亡くなってしまったんですけどね」
「そうなんだ…」

