幸せになるために

「でも、普通はそこで気付いて書き直すでしょ?」


オレを遮るようにそう言うと、吾妻さんは憎々しげな口調で続けた。


「この人の場合はどうせ嫌々適当に書いて間違えて、その事に気付きもせずに投函したんでしょうよ」

「え……」


すると吾妻さんはいきなり乱暴な手つきで封筒を開いた。

中に入っていたハガキを取り出し、しばらくそれを眺めてからカウンター上に置くと、オレに向けて解説する。


「高校の時の、同窓会があるみたいです」

「あ、それの出欠確認のハガキ?」

「ええ。こういうのは卒業時の住所を基準に作成されてますからね」

「それで吾妻さんのご実家の方に届いて、こっちに転送されて来たって訳か。なるほど」

「そうですね。ハガキ以外何にも入ってないけど、そういう事なんでしょう」


すると彼は手にしていた封筒をビリビリと細かく破り始めた。


「えっ?あ、吾妻さん!?」


思わず度肝を抜かれながらも、それでも聞かずにはいられなくて慌てて質問する。


「そんな事やっちゃって良いの?」

「ええ。こんなの、取っておいても意味ないですし」

「で、でも、それ、お母さんか、お姉さんからだよね?」

「母です。俺には兄一人しかいませんから」

「家族から手紙が届いたら、オレだったら一応、封筒ごと保管しておくけど…」


そこで吾妻さんはオレに視線を合わせた。


「比企さんならそうするでしょうね。でも、俺には俺のやり方があるんで」


普段の彼らしからぬ、冷たい視線、声音に、思わず体がフリーズする。


「…………すみません」


きっとほんの十数秒の事だったんだろうけど、オレにとっては何時間にも感じられる沈黙の時を経て、吾妻さんは静かに声を発した。


「今のは八つ当たりです。最悪ですね……俺」


オレの返事を待たずに彼はキッチンへと移動すると、紙片となった元封筒をゴミ箱に投げ入れた。

そして再びダイニングテーブルまで戻り、対面の席にゆっくりと腰を下ろす。


「もう、気付いてると思うんですけど…」


どう言葉を紡いだら良いか分からずに、その間ずっと無言でいたオレに向けて、吾妻さんはポツリ、という感じで語り出した。


「俺、母親と上手くいっていないんですよ」