最大の目的を忘れてちゃダメじゃんか。


「ん?どうしました?」

「え、えっと、実は…」


突然、短く声を発したオレを不思議そうに見つめる吾妻さんに、おずおずと郵便物を差し出した。


「これ、オレの所に間違えて入ってて、届けに来たんだけど…」

「あ、そうなんですか」

「そ、それで、ゴメン。ちゃんと確認しないままに途中まで封を開けちゃったんだ。しかも、ちゃんとハサミを使ってないからギザギザになっちゃって」


言いながら、糊付け部分を指で差し示す。


「ああ、別に構いませんよ。中身には問題ないだろうし」


吾妻さんはあっけらかんとした口調でそうフォローしてくれながら封筒を手に取った。

しかし、改めてそれに視線を走らせた瞬間、激しく顔をしかめたのである。


「あ。や、やっぱ、ヒドイ事になってるよね?」

「……いえ…」


焦りながら問いかけるオレに、吾妻さんは一拍置いてから返答した。


「違います。そんなのはどうでも良いんですよ」


言葉の途中で、彼は今度は封筒の表を見た。


「やっぱりな」

「え?」

「住所が『アパートコダチ103号室』になってる。ここは102なのに。これが誤配の理由ですよ」


ここのアパートの住人は皆、郵便受けにもドアにも名前が分かるような物は一切貼っていない。

言わずもがなで、防犯の為に。

その気になれば誰でも敷地内に侵入できてしまうし、名前を把握されてそれを悪用されない保証なんてどこにもないから、でき得る限りの対策はしておかないと。

だからドラマなんかで、一人暮らしの若い女性が堂々と、しかもフルネームの表札を付けていたりすると『男だって気を付けているのに、そんなバカな』と思ってしまう。

まぁそれはさておき、名前が分からなくても部屋番号は表示されているのだから、郵便物や宅配便の配達員が頭を悩ますという事は普通はない。

実際、今まではすんなりと手紙や小包が届いていた。

しかし今回、差出人の部屋番号の書き間違いにより、初めてこういうトラブルが起きたという訳だ。


「あ、ああ~、そういうこと、あるよね!」


吾妻さんの態度を見て、何故かこの上ない焦燥感にかられながら、オレは必死に言葉を繰り出した。


「年賀状とか、ちゃんと住所を見ながら書いてるのにも関わらず、ついつい手が違う風に動いちゃったりして…」