「仕事で付き合いのある方から、お菓子の詰め合わせが送られて来て。お歳暮ですかね?一人で消費するの大変なんですよ」

「え、えっと…」

「この前ご馳走になったお返しという事で。ぜひ召し上がって下さいよ。ね?さ、上がって上がって」

「あ…」


オレに話す間を与えないように一気にそこまで言うと、吾妻さんはドアを開けたまま自分は中に上がり込んでしまった。

これはもう従うしかない。


「お邪魔します」


オレはそう口にしながら玄関に入ると、ドアを閉めて施錠し、すでに先を行っていた吾妻さんの後を付いてダイニングまで歩を進めた。

すっかりお馴染みになったテーブル前の椅子に腰掛け、キッチンへと向かう吾妻さんを目で追う。


「聖くんはどうしてます?」


お茶の準備をしながら彼が問い掛けて来た。


「やっぱり、ほとんどの時間寝てるんですか?」

「ん~、そうだね。目が覚めるのは3、4日に1回のペース。しかも仕事の日はもちろん、休みの日でも、夕方に起きて来て外が暗くなり始めたらおねむになっちゃったりして、あんまり触れ合える時間がなかったんだよね」

「そうなんですか…」


そこで吾妻さんはカップとお茶うけをトレイに乗せて、それを手にダイニングテーブルへと近付いて来た。


「まさか誕生日当日、ちゃんと起きてくれますよね?」

「あ、それは大丈夫だと思うよ。聖くん自身、その日は自分にとって特別な日だってきちんと自覚しているようだから」


コーヒーとお菓子をテーブルに置きながら不安を口にする吾妻さんに、すぐさま返答した。


「以前『誕生日にケーキを食べなくちゃいけない』っていう風に言っていたから」

「……そうなんですか…」

「だから自然に起きられるんじゃないかな。もしくは、たとえ寝ていたとしてもオレ達が声を掛ければすぐに目を覚ますと思う」

「それを聞いて一安心です」


吾妻さんはトレイをテーブル横のカウンターに置きながら、穏やかに微笑んだ。


「もう一週間切りましたからね…。ドキドキですよ。悔いが残らないように、頑張りましょう」

「うん…」


しんみりとしながら目線を下げたその時、自分がずっと手にしていた物が視界に入った。


「あ」


そうだ。

これについて謝罪するつもりでこの部屋を訪れたんだった。