慌てて封筒を表に返し、宛名を見て、予想通りの結果に思わず声を上げてしまった。


「うわ~やっぱり。やっちまったー」


そこに書かれていたのはズバリ、お隣の吾妻さんの名前だったのだ。


「どうしてオレの郵便受けにこれが…?」


って、配達の人が間違えたからに他ならないんだけど。

どうしても口に出さずにはいられなかった。


「参ったな~」


オレは後頭部をガリガリと掻きながら立ち上がる。

実はもう糊付け部分の半分くらいまで剥がしてしまってあるのだ。

もー。
オレのバカバカ!

実家にいる時、郵便物は母さんが前もって仕分けして渡してくれていたから、手元に来る物はいつも自分の分しかなかったんだよね。

だから郵便物の宛名をきちんと確認してから開封するという習慣が身に付いていなくて。

つくづく、今までどれだけ至れり尽くせりの環境で育って来たのかという事を痛感する。

しかし、いつまでもここでグズグズと悩んでいる場合じゃない。

ただ誤配されていただけなら郵便受けに入れ直しておいても良いだろうけど、途中まで開封してしまったのだから。

こんな状態の物を受け取ったら、オレだったら超ビビる。

直接渡して謝るべきだよな。

オレはため息を吐きながらそっと寝室へ入り、ジャケットを手にすると再びリビングへと戻ってストーブの電源をオフにした。

ジャケットに袖を通しながら玄関に向かい、靴を履き、ラックから鍵を取って外に出る。

施錠して、数メートル先にあるお隣さんのドアの前まで歩を進めながら考えた。

吾妻さんいるかな…。

呼び鈴を押し、待機していると、ほどなくしてカチャリと音がし、ドアがゆっくりと開かれる。


「あ、こ、こんばんは」

「あれ?比企さん」


吾妻さんはちょっと目を見張りながらさらに大きくドアを開け、問い掛けて来た。


「どうしました?」

「ご、ごめんね。忙しいところ」

「いえ。ちょうど仕事が一段落して、夕飯食ってた所ですから。忙しくはないですよ」

「あ、じゃ、食事中…」

「それも終わりました。今日のディナーはカップラーメンでしたからね。あっという間に胃の中ですよ」


爽やかに笑ってから、吾妻さんは続けた。


「あ。何だったら、食後のコーヒーに付き合ってもらっても良いですか?」

「え」