同僚の一人がそう呼び掛け、皆が動き出したので、とりあえずケータイを一旦ジャケットのポッケに入れて、オレもその流れに従った。

全員一斉に休憩室を出て、ゾロゾロと廊下を進み、階段を降りる。

スタッフ通用口から外に出て、別れの挨拶を交わしたあと、歩きながら再びケータイを取り出し、操作した。


『はい。比企でございます』

「母さん?オレだけど」

『あ、たすく。ごめんなさいね、さっき…』

「うん。電話くれたんだね」


19時半頃、家の固定電話から着信があったという事を先ほど確認した。

兄ちゃんと父さんはケータイからかけて来るハズだから、これはきっと母さんだな、と予想していたんだけど、ズバリ、的中したようだ。

母さんもケータイは持ってるんだけど、「あれはあくまでも出先での緊急連絡用。自宅にいる時は私は固定電話を使う」と常日頃主張し、実践している。

だから今もケータイではなく、まずは家の方の電話にかけてみたのだ。


「ちょうど仕事中だったから出られなかったんだ。ごめんね」

『ううん。お母さんこそごめんなさい。タイミングが悪くて』

「知らなかったんだからしょうがないよ~」


実家にいる時は自然とシフトが把握できたけど、今は無理だし、そもそも知る必要もないしね。


「で、どうしたの?」

『ええとね。たすく、クリスマスの予定はどうなってるの?』


ドキッとして思わず固まってしまっている間に、母さんは言葉を繋いだ。


『翔とまりちゃんは新婚旅行でしょ?それで、たすくはどうするのかしらと思って。もし当日来られるようなら、ケーキを買って、何かたすくの好きな物作っておくけど』

「あー…。え~と…」


我が家のクリスマスとは、イコールイブの日を指している。

あんまり小さい頃の記憶はないんだけど、小学生の時からで言うと、12月24日、終業式から帰り、まずはおじいちゃんとおばあちゃんと母さんに、次いで仕事場から帰って来た父さんに通信簿を見せて「勉強お疲れ様」と労ってもらったあと、クリスマスパーティーに突入、というのが定番の流れだった。

まぁパーティーとは言っても、クラッカー鳴らしたり家族でゲーム大会とかやったりした訳ではないんだけど。

ただ夕飯に、クリスマス仕様のご馳走とケーキを食べながら、普段より長く語らうだけ。