幸せになるために

「え?良いの?」

「うん。ただ、お兄ちゃんも一緒に寝るから、どっちか半分空けておいてくれる?」

「うん、分かった~!」


元気良くお返事しながら、戸口に居た聖くんは掛け布団を掛け直しているオレの隣にたたっと駆け寄って来ると、キラキラと輝く瞳でこちらを見上げ、言葉を紡ぐ。


「お兄ちゃんと一緒におねんねできるなんて、嬉しいな~」

「……オレも、すごく嬉しいよ」


胸がキュンとするのと同時に、何故か涙腺もじんわりと熱くなってしまって、オレは慌てて布団を整えつつ、聖くんから顔を逸らした。


「あれ?」


しかし、聖くんはさらにオレの顔を覗き込んで来る。


「お兄ちゃん、ここ」

「え?」

「何か、赤くガサガサってなってるよ~?」

「え?あ…」


自分の額の右側を押さえている聖くんに倣い、オレもその部分に右手の指先を当てた。


「この前、ちょっとケガしちゃって」


前髪で上手い具合に隠してたんだけど、動き回っているうちに乱れて、ちょうど聖くんの位置からその部分が見えたのだろう。


「えっ!だいじょうぶ?」

「うん。もう全然平気だよ。これは傷口がちゃんとふさがって、かさぶたになってるところだから」


腫れもだいぶ引いたしね。


「何でけがしちゃったの?ころんじゃったの?」

「ううん。お出かけしようとして部屋を出たら、スニーカーの靴ひもがほどけちゃってね…」


オレはその場に屈み込み、あの時の様子を再現しながら解説した。


「こうやって直している時に、ちょうどりきお兄ちゃんの部屋のドアが開いて、おでこにごっつんこしちゃったんだ」

「え…」

「もちろん、りきお兄ちゃんは悪くないよ。オレが邪魔な所で直してたのが悪いんであって……どうしたの?」


急に黙り込み、ソワソワと落ち着かない動きを見せ始めた聖くんに問い掛けた。


「……ごめんなさい」

「え?」

「それ、ぼくのせいなの」


聖くんは瞳をウルウルさせながら言葉を繋いだ。


「くつのひも、ぼくがほどいて遊んでたの。『しゅる』ってなるのがおもしろくて…」

「あ」


そうだ。

何の気なしに言っちゃったけど、靴ひもがほどけやすくなってたのは、どう考えてもやっぱ聖くんの仕業だったんだよな。


「そのあとむすんでおいたんだけど、ぼく、ちょうちょ結びへただから…」