「うん」

「でも、あんまり画面を見すぎるのは良くないから……」


コーヒーを一口すすってから続ける。


「お兄ちゃん、今日は10時半過ぎにお仕事に行かなくちゃいけないんだ。だからその時間になったら、いったんテレビは消そうか」


あと一時間くらいだな。

テレビ画面に表示されている時刻を見ながら考える。

その頃にはもうチビッコ向け番組も終了しているだろう。

今日は遅番なので始業時間は11時15分。

もちろん、ぴったりその時間に入れば良い訳じゃなくて、社会人たるもの、5分前には持ち場に就いていないと。

職場までは徒歩で15分だけど、途中のコンビニでお昼を買わなくてはならないので、そこでいつも5分は費やす。

そして職場に着いてから、エプロンを着けたり鏡で身だしなみをチェックしたりしていると、これまたあっという間に5分くらい経過してしまう。

なので30分は確実に必要で、そこにちょっと余裕を持たせて、遅番の時にはいつも10時40分には家を出ていた。

ちなみに早番の日は9時出勤(開館時間は9時半)なので、同じように35分逆算した、8時25分に家を出ている。

徒歩だから渋滞にハマったり公共交通機関のダイヤの乱れに巻き込まれる、なんてハプニングが起こる事はないし、自分さえペースを乱さなければ毎日同じ時間に同じ行動が出来るので、精神的にとても楽である。

兄ちゃんのアドバイス通り、職場の近くに引っ越して本当に良かった。

もちろん、寝坊なんかしちゃったら意味ないけどね。


「お兄ちゃんおしごとなんだ…」


聖くんはオレの顔を見ながら、ちょっと残念そうに呟いた。


「うん。それに、出かけるのが遅い分、帰りも遅くなっちゃうんだ」

「なんじにかえるの?」

「夜の8時半くらいかな」

「そっか~、すっごくおそい時間だね~。ぼく、そのころにはおねんねしちゃってるかも…」

「うん。眠くなったら、我慢しないで寝ちゃって良いよ。あ、そうだ」


ふいにその事を思い付き、オレはマグカップをテーブルに置いて立ち上がると、「ちょっとこっち来て」と聖くんを手招きしつつ寝室へと移動する。


「今度おねんねする時は、このお布団に入りなね」


朝食が済んでから押し入れに仕舞おうと思っていたので、いまだ畳の上に敷きっぱなしのブツを指差しつつそう言った。