幸せになるために

「え、ええ。あ、開きました。すみませんお待たせしてしまって」


ようやく解錠できたドアを開け、鈴木さんはオレを中へと促す。


「あ、すごく広い」


玄関を入って廊下を数歩進み、正面のドアを開けるとそこはリビングダイニングキッチンで、パッと見10畳以上はあった。

ソファーやテーブルを置いたらまた印象は変わるだろうけど、それでもかなりゆったりと使えるハズ。

さらに進んで左手にある引き戸を開けると今度は4畳半ほどの畳の部屋。

実家の自室と比べたら狭いけど、押し入れと作り付けの洋服ダンスがあって収納力は抜群だし、オレは寝る時布団派なのでベッドを置く必要はなく、これくらいのスペースがあれば寝室としては充分。


「水回りはこちらでございます」


鈴木さんの言葉に従い来たルートを戻って廊下に出て、まずは手前にあったトイレのドアを開いた。

アイボリーでウォームレット付きの、清潔感のある洋式便座だった。

次に洗面所と、そこから繋がるバスルームを順にチェック。

風呂釜がちょっと狭くて、足を完全に伸ばして湯船に浸かるのは無理そうだ。

でも、これくらいは仕方ないかな。


「おおー。ベランダも広ーい!」


再びリビングに移動し、大きな掃き出し窓を開けて外に身を乗り出す。

目の前が駐車場になってはいるけど、アパートを囲っているブロック屏に向けて、バックで駐車するようになっているので、排気ガスがダイレクトにベランダに当たる心配はない。

この広さでこの構造なら、安心して洗濯物をたくさん干せる。


「南向きで日当たりも最高ですよね」


振り返り、後方に控えていた鈴木さんに向けて言葉を発した。


「ええ」


角部屋っていうのもポイント高いよね。

一番肝心の通勤時間も、ここから駅まで徒歩15分らしいから、その手前にある我が職場までは10分くらいで行けるハズ。

自転車なら数分だろう。

これで月4万円か~。

もう、迷う必要はないよね。

普通だったら複数の物件を内見してから決めるんだろうけど、もうここ以外には考えられなかった。


「……やはり、こちらのお部屋になさいますか?」

「はい!」

「それでは、事務所に戻って契約の方を」