「お前も知ってるだろうが、鈴木グループには三田井財閥がついている。野田家としても悪い話ではない。それに彼は若干30歳で鈴木グループ子会社の社長だ」

「……」

「将来的にも三田井財閥はもっと大きくなる。今のうちに後ろ楯にしておくのも手の内だ。今週末に顔合わせの話があるのだが……どうだ?」

 腕組みをしたまま私を見つめる父の目は、とても威圧感があり言いたいことも口には出来ない。

 小さい頃から私は名のある財閥グループの嫁になるよう言われてきた。

 父の為、母の為、そして家の為にと――。

 そして私は野田家の人形なんだと物心ついた時に気づいた。

 父母、そして親族が願うのは野田財閥の行く末だけ――。

 私はそれの駒の一つでしかない。

 この家はまるで牢獄にでもいるかのように息が詰まる。

 言いたいことも言えず、ただ父母のいいなりに生きてきたこの家を早く出て行きたかった。