市谷は小さなため息をついた。

そして、俺をちらっと見る。

茶色い瞳が俺を見てる。

睨んでるんじゃなくて、ちゃんと。

久しぶりだ。

いつもの、俺の知っている市谷の表情だ。


「それでも、あんなことは許されないよ。」

「わかってる。反省してる。」

そう言うと、市谷がちょっと笑った。

市谷の笑顔だ・・・。

それを見るだけで、心があったかくなる。


「でも、ちょっとうれしい。」

その言葉に反応して、市谷をまた見る。

市谷は、俺から気恥ずかしそうに視線をそらした。

「藍田くんが、そんなにわたしのことを考えてくれてうれしい。

やり方は、最低だと思うけど、

そこまで藍田くんが怒ってくれてうれしいよ。」

市谷・・・・。

「わたし、今までこんなに自分のことで必死になってくれた人

家族以外にいなかったから。」

にっこり笑う。


・・・・っ

笑顔だけで、また脈打つのがわかった。

そっか。

本気になったら、こうなのか。

相手の本当に本当にちょっとしたしぐさで

こんなにもうれしくなる。

トクトクと心臓の音が聞こえてくる。