「なら、でる?」
いつものように、だまって首をかしげる。
「ここから。抜けちゃう?」
黙って頷いて『わたし、帰るね』と言って鞄を持ち始める。
「俺も一緒にでるけど。」
平然と告げると、びっくりしたようにバッと振り返った。
そして、何度も首を横にふる。
「だめだよ、それは!
藍田くんはまだいないと!」
「なんで?」
「だって、人気者だし。」
「っぶ・・・!なにそれ。」
人気者って・・・。
「俺、ちょうど出たかったから。
ちゃんと一曲歌ったし。聞いてた?」
ぼちたには、瞳だけ俺にむけて頷く。
なんだかそれがうれしくて得意気になってしまう。
「とっても、藍田くんの声に合った歌だった。」
なんか、その言葉、単純に『上手い』って言われるより照れるんだけど。
「そう?」
ぼちたにはやっぱり何も言わずただ頷く。
「サンキュ。じゃあ、行くか。」
「ホントに藍田くんも帰るの?」
俺は、ぼちたにを真似て頷いてみせる。
それを見て、一瞬困った顔をしたけど頷き返してくれた。


