菜月の涙はとまった。

ただ、俺の言葉を全身で聞いている。

静かに目を閉じて、ゆっくりと頷く。

「早く、こうすればよかったの。」

目を開いて、俺を見て笑う。

けど、その笑顔は見たことないもの。

「ごめんね、章吾。

章吾に本命ができたって知って、ショックだったけど、邪魔する気なんてなかったの。
でも・・・目の前にきたら、うらやましくて。章吾に思われてるあの子がうらやましくて、あんなこと・・・

・・・ううん、違うか。最初から、どこかでうまくいかなきゃいいって思ってたかも。」

さっきまで、菜月に対して怒りを向けていたけど、もうそんな感情向けれない。

第一、俺が撒いた種だ。

「ごめんなさい。」

頭を下げる菜月にただ、「もういい。」と言うしかなかった。

「菜月。」

名前を呼んで、相手の目を見る。

これだけは、言っておきたい。

「こんな俺を、そこまで好きになってくれてありがとう。」

俺の言葉が届いたとき、驚いて目を見開いてから、うれしそうに笑ってくれた。

それを見て、なんだか自分を見ているような気分になる。

俺も、伝えなきゃだめだ。

言わないと、相手はわからない。

愛樹に、ちゃんと、伝えなきゃだめなんだ・・・。