「ごめん・・・。」

思ったと同時に言葉に出た。

「ごめん、菜月。」

もう一度、菜月をしっかり見る。

菜月は、我に返ったようにビクッと体を震わせた。

俺の目を見る。そらしたいけど、そらさない、とでも言うように、辛そうに。

「章吾は、悪くないよ・・・。

私が勝手に好きだっただけ。告白だって、何度もチャンスはあったのに、章吾との関係が壊れるのが嫌で、怖くて、言えなかった私が悪いの。」

怖い、と思う感情は俺もわかる。

今、俺が愛樹に対して感じてる感情なんだ。

好きだと伝えたいけど、怖い。

痛いくらい菜月の気持ちがわかるよ。

だから、余計に悪いことをしたと思う。

「章吾は悪くない・・・。」

言い聞かせるように。

「ただ、私が・・・章吾のこと、好きなだけ。」

さっきは過去形だったけど、過去形じゃなくなった。

それは暗に、今でも好きだと言われているような気がして切なくなる。


「ごめん・・・。」


今まで、なんとも思わず告白に対してこの言葉を返してきた。

けど、人を好きになる気持ちを知った時、こう言われた相手の心を思うと、とても重たい言葉なんだと知った。