「愛樹。」

「え!?」

「・・・・え。」

自分でも驚くほどに、その言葉は自然と出てきた。

俺、今なんて言った?

「藍田、くん?」

市谷は、驚いたように俺を見ている。

彼女の近くに行きたい。

そう思ったと同時に、俺の足は動いていて、初めて図書室で彼女と対峙したのときのことを思い出した。

あのときと同じ位置。

市谷が座っていて、俺がその横に立って見下ろしている。

市谷から視線を逸らせない。今逸らしたらだめだ。

そして、もう一度。

今度はちゃんと意識して。

「・・・愛樹。」