相変わらず雲は月を隠して



人気が一切なくて




真っ暗で





心細いな…


どうしよう、このまま夜を明かすのかな??



いやだ


どうにかして、帰ろう!



でも、どうしたことやら……



カツカツ…




ん?

今の、足音?



カツカツ…


カツカツ..


カツカツ..




近づいてきてる??




しだいに大きくなる足音に、救われたような気持ちになった




「すみません!あの、足を挫いてしまって!
助けてくれませんかー!?」





カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツ…


カツッ





闇でボンヤリとしか見えない視界に、小柄な人影が大きく映り込んだ



サラリと何かが僕の鼻先をかすめる



かすかに花のような甘い香りがした




僕の目の前に立つ人影は、コトン、と首を傾げる




「あの、足を挫いてしまって……」



体型的に、女の子かな?



人影は長い髪の毛の子みたいだ
それに、なんか着物…かな?
着ている物はどうみても着物



その女の子らしき人影は、僕の言葉を聞くと、大きくうなずいてしゃがみこんだ


しゃがみこんだまま、なにかモゾモゾしている




何をしてるんだろ…?




不思議に思って眺めていると、突如鼻を突く、妙な香りがした



この、匂いは…


匂いの正体を頭に浮かべようとする僕に、人影はズイと手を僕に差し出した




「クエヤ、クラエヤ」



高い、女の子の声



差し出した手に何か乗っている




クエヤ?

食えや…?



食べろってこと?



でも


さっきから香るこの妙な香りは、その手の上の物からより濃く匂うんだけど…?




しかし、僕の迷いなどお構いなく女の子は手を突き出してくる




「クエヤ、クエヤ
クラエ、クラエ」


そして、差し出してなかったもう片方の手でグイッと僕の口をこじ開けた



すごい力だ…っ



そして、無理矢理、差し出された物を口に突っ込まれる



味を感じる前に、思わず飲み込んでしまった

結構な大きさの塊は、喉で一度つっかかるようにとどまったが、すぐに胃へと向かって行く



「げほっ、げほっ!
な、何を…」



何を食わせた、



そう言おうと顔をあげると、さっきまでいた人影がない



あれ…


僕は違和感の残る喉を抑えながら、呆然とする



背筋が、冷えた感じがした



お尻から伝わるコンクリートの冷たさが、より一層僕の体を冷やしていく




なんだったんだ、あの子



それに




あの匂い




鉄の錆びたような香り……



血のような、香りだった