結局、ばあちゃんは帰って来ず、書き置きだけして、渡されていた合鍵で玄関の鍵を閉める



ばあちゃんには昨日承諾を得たからわかってくれてると思うけど




「ていうか、どうやって行くの?」

「あー、下ったところに迎えを頼んどいたからいるはずだぜ」


ここから俊ちゃんの地区まではかなり遠い

徒歩じゃさすがに大変だ


俊ちゃんの言うとおり、昨日詩織ちゃんと散歩に行く時に通った砂利道を下って行くと、道路の端のところに軽トラが止まっているのが見えた


「お!アレアレ!」

俊ちゃんが走り出すので後に続く

砂利道から道路に道が変わり、止まっている軽トラに駆け寄る



「俊太、早かったな」

「おぅ
こいつがカナタだ
で、ツレの詩織」

軽トラの持ち主であろう中年の優しげなおじさんに僕と詩織を紹介する俊ちゃん。


「このおっちゃんは地区長の日下部さんだ

学校の帰り道とかにバッタリ会うと、いつもジュースおごってくれんだよ

お前らも何かたかっとけ」

「こら」

俊ちゃんの不遜な態度に、にこやかに返す日下部さん


仲がいいみたいで、かなりくだけた雰囲気だ


「よし、じゃあ行こうか

悪いけど、俊太とカナタ君は荷台に乗ってくれるかい?

詩織ちゃんは助手席で」

「あ、私も荷台でいいですよ」

「そうかい?
じゃあ三人とも、荷台に乗って」

日下部さんが車の中に入り、僕らも荷台によじ登る



エンジンがかかり、軽トラが動きだした


「俊ちゃん、俊ちゃんの地区って何人くらい子どもがいるの?」

「小中学生だと30人くらいじゃないか?
これでも子どもがわりと多い地区なんだぞ」

「少ないねぇ!」

「俊太君より上の人はいる?」

「中3はいないな
中2が俺ともう一人、日下部千夏っていうやつがいるぞ
日下部さんの娘だ」

「あ、女の子いるんだ!
話してみたいな〜」

詩織ちゃんが嬉しそうに言う


見知らぬ土地だし、同年代の女の子がいるならそうだろうな
今のところ僕や俊ちゃんとか、男ばっかとしか会ってないしね



なんて話していると、軽トラが止まった

「お、着いたな」

俊ちゃんが颯爽と軽トラの荷台から飛び降りる


公民館らしき建物があり、その前に軽トラが止まっている

他にも何台か車が止まっていて、公民館からは明かりが見え、入り口付近にバーベキューで使うものらしき物や食材が置かれている



俊ちゃんと日下部さんについて公民館に入ると、たくさんの子どもの靴やいくつかの大人の靴が脱いであった


靴を脱いで廊下を渡り、明かりのついている広間に出る



広間はザワザワとざわめいていて、小学校低学年くらいの子がドタバタ走りまわっていたり、おばさんとかがおしゃべりをしていたりしている

他にも、小学生が何人もいて、中学生らしき人は2・3人、大人は10人くらいいた



僕らに気づくと、走り回っていた男の子
が広間の入り口に立ち尽くす僕らに駆け寄り、

「だーれー?」

と聞いてくる

俊ちゃんが屈んでその子と目線を合わせて


「俺の友達だよ
カナタと詩織っていうんだ
仲良くしてやってくれ」

と優しく言った


俊ちゃんの優しげな態度に、ちょっとびっくり


詩織ちゃんも意外そうに俊ちゃんを眺め、それから視線を男の子移して「よろしくね」と微笑む




僕もそれにならって「よろしく」と笑いかけると、男の子はニヘラッと笑って

「よろしくー!」

と叫ぶ

素直ないい子だなぁ



俊ちゃんは広間にズカズカと入って行き、「全員集まったかー?」と叫んだ


すると、今までざわついていた人々が静まり、小学生たちが「はーい!」と元気に返事をする



「よし!じゃあバーベキューをはじめようか!その前に、紹介したいやつらがいるんだ」


俊ちゃんは入り口に立つ僕と詩織ちゃんに手招きをする


一斉にみんなの視線がこちらに向き、緊張してしまう


おずおずと俊ちゃんの隣に歩み寄り、軽く頭を下げた



「カナタと詩織だ!
都会から来ていて、カナタは長谷川さんの孫だぜ
で、詩織はカナタの彼女だ、手を出すなよ!」

俊ちゃん!?


「ちょっ、俊太君…ッ!?」

詩織ちゃんが真っ赤になって俊ちゃんを見る


周りのみんなは一斉に「ヒューヒュー!」だとか「アツいねぇ!!」とか口笛を吹いたりだとかして冷やかしてくる


は、恥ずかしい…!!


僕も詩織ちゃん同様顔が赤くなっているだろう


俊ちゃんはニヤニヤしてる


ああ、もう!