「カナタ君!着いたよ!!起きてっ!」


ゆさゆさと、眠る僕の体を乱暴に揺する詩織ちゃん。


うるさいなぁ…


僕は重たいまぶたを渋々開く。


目の前には、目をキラキラ輝かせた詩織ちゃんの顔がある。



「ホラ!早く荷物持って!
早く降りようよ!!」



そう言って、僕の荷物を押し付け、腕を引く。


「ちょ、痛い、痛いよ詩織ちゃん」


「はーやーくー!」





僕は長谷川カナタ。
14歳だ。


一緒にいるのは幼なじみの中山詩織。


都会の中学に通っている僕らだけど


夏休みの宿題の調べ学習のために、僕のばあちゃんが住む町まで電車で来たところだ。




詩織ちゃんに腕を引かれ、ノロノロと僕は詩織ちゃんについていく。


なんでこんな元気なんだよ、詩織ちゃん…


電車に揺られて約5時間。


詩織ちゃんは初めての遠出らしく、出発した時からずっと目の輝きが失せない


むしろ、増してるし…


僕は途中から睡魔に負けてしまったが、詩織ちゃんはずっと窓を眺め続けていたようだ


「うーん、空気がおいしいっ!」

詩織ちゃんが大きく深呼吸する


駅を出てすぐ僕らを迎えたのは、緑。

緑に覆われた山々に四方を囲まれ、それらの景色を妨げる高層ビルなどひとつもない町並み


町並みといっても、田んぼや畑が大部分で、家の方がこじんまりしている


そう、ばあちゃんが住む町・白神町というのは、俗に言う"田舎"だ