辺りを見回すが、とても人なんている雰囲気なんてない


詩織ちゃんも神社の裏などを見に行ったりしたが、誰もいない


「どうしよう…」

詩織ちゃんが心底困った顔をする

僕も同じ顔をしているだろうな



ガサッ



ん?

今、草が踏まれる音が…


「お前ら、そこで何してる?」


反射的に声の方を振り返る


神社の横の雑木林から、黒いタンクトップに、黒地に白いラインの入ったジャージのズボンをはいた、僕らと同じくらいの歳の男の子がいた


いかにも野球部という丸刈りで、顔や腕のあちこちにすり傷や絆創膏が貼ってある


細いが、鍛えられた感じのたくましさがあり、精悍な顔立ちをしている


「あの、私たち、道に迷って…」

詩織ちゃんが遠慮がちに言う

「見ない顔だけど、観光客かなんかか?」

「いや、祖母がこの町に住んでて…」

「ばあさんの名前は?」

「長谷川初代」

確か、そんな名前だった…気がする

自信ないや


だけど、その名前に聞き覚えがあるようで

「あー!!長谷川さん家の孫かー!
んじゃあお前、カナタか!?」



…ん?

なんで僕の名前を知ってるんだ?


「カナタ君、知り合い?」

「え?あー…、うーん………」

「何だよ!覚えてないのかよ!
ホラ、昔よく遊んだろ?!
俺だよ、瀬田俊太だよ!
俊ちゃん俊ちゃん言って一緒にサッカーしただろ!!!」

俊太と名乗った男の子は、僕にツカツカと近寄り、自らの顔を指差す


「んー………?」

俊太の顔をジッと凝視する

俊ちゃん?

俊ちゃん、俊ちゃん……

俊ちゃん!?


記憶の底で、かすかに俊太らしき少年とサッカーをした時の光景が浮かんでくる


「俊ちゃんっ!?」

「おー!やっと思い出したか!!
おせーよ、カナターー!!」

バシバシと僕の背中を叩く俊ちゃん


痛い、痛いって!!

確か、昔ばあちゃん家に来た時に、ばあちゃんに公園に連れてってもらったんだ

その時、俊ちゃんにサッカーに誘ってもらって…


都会に帰る時には大泣きして俊ちゃん俊ちゃん騒いだっけ