初恋の人だったジュンは、総督アクアの征服を恐れて逃亡したのだという。

とても信じられない話だったが、もはや一緒になることのできない相手である。


リゲルは忘れてしまうように努力した。王子と王女の結婚によって統合されるはずだった2つの国は、アクアの東征により実現した。



 アクアの部下ライジェルが、リゲルに話をもちかける。



「婚約者であったジュン王子の逃亡により、あなたの地位は今まさにおびやかされようとしています。アクア様はそのことをひどく気になさっておいでだ。そこで、もしリゲル様さえよろしければ、アクア様の妃として、我が国の発展に尽くしていただきたいと、アクア様はそう申しておりました」




 リゲルにとって、こんな話は考えられないことだった。ジュンの運命を狂わせたこの男と、どうして結婚しなければならないのか。それなら、王宮を去る方がよほどましである。




 そう思い、リゲルは王宮を去る準備をした。


 しかし、それさえもすでに計算されていたのである。






 アクアは王家の唯一の直系であるリゲルを、利用しない手はないと考えていた。


彼女を王家にとどめておくことは、自分の支持率につながることを心得ていたからである。そのためアクアは、リゲルがすぐに王宮へ戻るような工作をいろいろとした。





 普通王宮を出て生活する女性は、なるべく人のいない田舎町で暮らす。そうすれば広い家に召使が何人もいても不思議に思われない。位がわかるような金品は身に着けず、質素ながら上品な恰好をするものであった。



 しかしリゲルが馬車で案内された土地は、下町でもとびきり治安の悪い、道路にハエのたかるような街であった。夜でも街の喧騒が聞こえるような通りの部屋に案内され、慣れないリゲルはろくに眠ることもできない。


その上身の回りの世話をするものはいても、外出は一人でしないといけないのである。


最初の3日は家でじっとしていたが、こらえきれずに外へでてみた。