夕凪に映える月

  

「ごめんな、ナギ。
俺…変なこと言ったよな。」


「え……??」


「ナギがもう高校生だってわかってんのに。一人前のオンナなんだから恋の一つや二つなんて経験するに決まってんのに……俺の中ではオマエはいつまでたってもカワイイ一人の女の子なんだよ。」



そう言って私に笑いかけてくれたあっちゃんは、いつものお兄ちゃんの顔をしたあっちゃんだった。

さっきまでのあの余裕のない、どこかおかしな顔をしたあっちゃんはどこにもいなくなっていた。

あっちゃんがあの時、何を感じ、何を思っていたのかはわからないけれど、バカなワタシにもこれだけはハッキリわかった。



――間違えた。

多分、私は順序を間違えてしまったんだ。




「ごめんな。なんかオマエのコトが心配になって、なんか俺より虎徹と仲いいナギに腹が立ってたけど……しょーもない父性愛だったな。」


「……どういうこと……??」


「ほら。嫁入り前の父親の気持ちってヤツだよ。大切な娘を奪われる時の嫉妬心っていうのかなぁ。
ごめんな、変なコト言っちゃってさ。」




そう言って、あっちゃんはゆっくりと月を見上げる。


淡く光る月は、あの夕焼けに染まる海で見た月よりも、輝きが鋭くなっている。キーンとした寒さで、張りつめたような空気感が、そう見せているんだろうけど……そんな月を見ながら、あっちゃんはこう言った。



「ナギも…恋だってするよな。
俺以上に仲のいいヤツだってできるよな。
こんな風に思う……俺の方が変なんだよな。」