こうしてわたしの記念すべきファーストキッスは、ムードも何もないまま呆気なく奪われてしまったわけですが。



「今度さー、待ち合わせて電車通学してみよっか」

思いがけず特別な場所となったコンビニを後にして、また二列走行でビュンビュンと風を切りながら。りょーたがふと口にした提案が嬉しくて、わたしは小さく頷いた。

それにしても。

「……なんか余裕だね、りょーたくん」
「え?」
「わたし、心臓が飛び出ちゃいそうだったのに」

キスする前も、後も、今こうして話しているときだって。表情も態度も全然変わらない。なんか腹立つ。
男子ってそんなものなのかな。

そう思っていたら、甘いな、とりょーたが笑った。


「おれは心臓が爆発しちゃいそうでしたけど?」


その勝ち誇ったような言い方が可笑しくて。可愛くて。
さっきまでのもやもやはどこへやら。ああ何だかんだいってわたしはこいつが好きなんだな、って思う。

うん。好きだ。すごく。


「次は、わたしも肉まん買おうかな」
「ああ、あれ結構うまかったよなー。また食いに行こ」

こんなわたしたちにはきっと、気取ったように甘いものは似合わないけれど、そのかわり。

全然甘くないけれど、ほかほか温まったもの。みえないけれど、同じもの。
わたしたちは、ちゃんと持っているから。
繋がっているから。この手は、ずっと。

だからまあ、焦らずのんびりいきましょうか。
わたしたちのペースで、ね。





『インビジブル・ビート』

ーENDー