兄貴が
佳乃子をふった?

あの兄貴が?

「だ…だって……兄貴…
佳乃子のこと………タイプだって…

俺の前で…

俺の彼女だって知ってて…」

「はっ!!

あんなのからかっただけだろっ

お前
あんなの信じてたのか?」

「じゃぁ
あや…」

言えなかった

兄貴の前で
綾香の名前を

兄貴の口から
綾香の名前が出るのが



怖かった





だが
兄貴はそんなのお構いなしに

「綾香は
俺がいただく」

俺にはそれが

ライバル宣言にしか聞こえなかった


「まけねぇ」


それが
俺が兄貴に言った言葉だった



=海助=

「そんなの
無責任すぎるよ」

綾香の言葉が
病院内に響く

まるでやまびこのように

何回も跳ね返っては
だんだんと小さくなっていき

消えてしまう


やまびこが消える前に
綾香は走り出した

2人のもとへ

「綾香ー」

俺も
反射的に走り出していた

夢中になって綾香を追いかけた


「早い」

さすが【宝】

本気で走ると
男の俺でも
差をつけられてしまう

綾香の足音が
徐々に遠くなっていく

気が付けば綾香の姿がほとんど見えないくらいになっていた