「私、旅をしようと思うの。今日からよ?」

「…へぇ、そうなんですか…」

「ええ。でも一人旅って危険だと思わない?」

「…さあ、どうですかね…」

「これから先また何時あんな輩に襲われるかも知れないわ」

「…はあ…」

 少年はなんだか会話が段々怪しい方へ向っているような気がしていた。けれど下手なことは言えない。何故なら自らの相棒は今まさに目の前で美しく微笑む少女の腕の中にあるのだから。こんなことになるのなら何故あの時愛剣を投げてしまったのか、今更後悔しても遅いのは十分分かっていた。

「私、一緒に旅をしてくれる人が居たらいいと思っていたの」

「…へぇ…そういうのは大事な事なのでよーくよーく考えた方がいいですよ…」

「そうね。まず私に危害を加えない人。そして、強い人…」

 少女は言い終わると同時に少年の瞳を真っ直ぐ見つめた。

「貴方、お名前は?」

「名乗るほどのものでは…」

「お名前は?」

「…ノア、ノアと言います」

 少女のエメラルドグリーンの瞳はとても不思議な光を宿していて、このままずっと見つめ続けられるのだけは耐えられないと、仕方なく自らの名前を口にした。それから少女は白く細い指を形の良い唇の下に添え俯き、何度か確かめるように少年、ノアの名前を口にし始めた。
 取り敢えずは少女にじっと見つめ続けられる状況から抜け出せたことにホッとしたのもつかの間、再び真っ直ぐに見つめられた。