「……もしもし、わかるか?」
数秒経ってから
受話器の向こうから聞こえてきたのは
紛れもなくあの人の声だった。
『ま、ひろ…?』
周りの音が一瞬にして消えた気がした。
「お~よくわかったな。そう、まひろ。
ひさしぶりだな、元気してた?」
『うん、元気だよ。まひろは?
陸人と呑んでるの?』
声がワントーンあがるのが自分でもわかる。
「俺も元気。そう、陸人とちょうどお前の誕生日だなって話になって、電話かけたんだ。」
俺は真面目だからオレンジジュースだけどな。
なんて笑う声が聞こえた。
少し声変わりしてるまひろの声が
なんだか懐かしい。
「……誕生日おめでとう。市原。」
初めて彼が祝ってくれた。自分の誕生日。
相変わらず、名前では呼んでくれないけれど。
そう、彼は私の初恋の相手―――。


