「ちょっ…もお、来ないでよ!」
再び走り出すが、長くは続かなかった。
あっという間に追いつかれ、途中の階段で腕を掴まれる。そして…壁際に、追いつめられた。
顔の横に手をつかれ、逃げることを許さない。…コウの息切れの音が、放課後の静かな空間に、響いていく。
「……っ、なんで、逃げるんだよっ…」
…そう耳元で、甘く掠れた声が囁かれた。
普段穏やかなコウが切羽詰まった声で言うものだから、余計にくらくらする。
こんなコウ、知らない。他の人よりずっと、コウのことは知っているつもりだったのに。
…知らない。
少しだけ熱の帯びた瞳で私を見つめるコウを、私は知らない。
「…なに、さっきの。可愛すぎ」
…お願いだから、耳元でそんなこと言わないでほしい。
耳の奥から、コウの音でいっぱいになる。甘い、甘い音が、響いている。



