…そーゆー女の子、いるんじゃん。美味しいクッキー焼いてくれる女の子、いるんじゃん。
黒くて醜い感情が、私のなかで渦を巻く。
…抑えなきゃ、いけないのに。こんなこと言っても、仕方ないのに…抑えきれそうに、ない。
だって、こんな可愛くない私なんかより、そういう子のほうがいいんじゃないの。
なんで私のことなんか、好きになったの。あんなこと、言ったの。
行き場のない怒りが、最近のもやもやした感情と絡んで、ぐちゃぐちゃになる。
そしてそれは、口から零れた。
「…ごめんけど私、お菓子作る趣味なんて、ないよ」
「…え?」
だめだ、おさえろ、私。
コウがボールをドリブルする、あの音が響く。
ダン、ダン、と。それはまるで耳の奥から暗示をかけられているみたいで、私はまんまとそれにひっかかった。
キュッキュッとバッシュが音を鳴らすたび、私の目はコウを追う。
コート上で、私の視界はコウしか映さなくなる。



