君が嘘をついた理由。



ちょうどコップを口へ運んでいるところで。メガネの奥の伏し目がちの瞳。彼のコップからは湯気がでてなくて、冷たい飲み物なのかな、そう思った。


「……僕は早川 陽太と言います」

ごくり、と飲み物がのどを通った後、


彼はコップを置きながらそう言った。早川 陽太。


「君は?」


聞かれて、一度コップへと視線を移す。名前……。


本名を言ってしまっていいのかな。や、ちょっと危ないかな。



「……るな」



敢えて苗字は言わなかった。そもそも猫に苗字なんてあるわけがないだろうから。教えなくても不思議がることはないはず。