あたしは何処に向かっているのかもわからないまま走り続け、いつの間にかあの空き教室に来てしまっていた。


「っ、天野!」


ビクッ


蓮の声に肩が飛び上がる。

……なんで、着いてきたの。


頬を伝う涙を拭いもせずに、あたしは後ろを振り向いた。


「な、んで…泣いてんだよ……」

「別に、蓮には関係ない」


プイッとそっぽを向く。


「関係なくなんかねぇよ!」


「関係ない。ねぇ、蓮。蓮はさ、あたしとのゲーム、覚えてる?」


唐突に切り出した。
蓮ははっ?とよくわかってないような顔をする。

……当たり前か。

だって一年も前のことだもの。

覚えてるわけないよね……


「……覚えてるよ。オレが天野を惚れさせられるかってやつだろ?」

「!!……そう」

覚えて、たんだ。

その事実に目を見開く。

「それがどうしたんだよ」

「蓮には、ただのゲームだったかもしれない。面白そうだから、やっただけなのかもしれない。……でもあたしはっ……!あたしは蓮に本気になっちゃったんだよ……?蓮のこと、大好きになっちゃったのに…」

「……は?」

「蓮は……彼女がいるんでしょ?名前で呼びあっちゃうくらい大好きな彼女が」

蓮が女の子をサクラって呼び捨てにしていたことを考えて、また涙が溢れてきた。

「天野、お前何言って」

「いいの。嘘つかなくても、蓮の気持ちはわかってるから。蓮……あたしね、蓮のことが好き。大好きなの。だけど蓮には……サクラっていう彼女がい」

「お前何言ってんの?オレの好きな奴は、前からずっと天野 桃。お前だけど」

「………………え? 蓮こそ何言ってんの?」

今嘘ついても、バレバレなんだから。

「だって、蓮には彼女がいるじゃん。サクラっていう…」

「違う。サクラは彼女じゃない。しかも、名前で呼びあってなんかねぇし」

「は?」

え、待って本当に意味がわからない。何言ってんの?

「だから!サクラっていうのはあの女の名字!アイツの本名は佐倉 雪花っていうんだよ!」

「えぇ!?じ、じゃあ蓮は……」

「呼んでない。オレの好きな奴はお前だって言ったろ」