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哀音の姿が消えて、男2人を縄にかけ終えた頃新選組の1番組がやってきた。
組長の沖田が2人の男と1体の死体を見て隊士に指示を出す。
「前川一人でやったんだー?」
いつもの間延びした話し方だが、組長の顔をしていた。
1番組の隊士として、偽りは許されない。頭では理解しているけれど、哀音の名前は出したくなかった。短刀の斬り口だとばれてしまえば問い詰められる。
短刀かそうでないかなど、新選組の隊士なら分かることも知っている。
迷いながらも頭を下げるだけにし、他の隊士と同じように動き始めた。
屯所に戻った後、副長土方に、襲われて長州の人間と分かったから捕縛した、とだけ報告した。他の隊士からは手柄だなんだと騒がれたが全て軽く流した。
以前会った時の哀音はひどく冷たい、氷のような目をしまさに人斬りの哀音だった。
だが、今日の哀音は愛音だった気がした。人を斬るところ以外は。
普通に言葉を交わし、あろうことか背中を預けた。何故だろう。疑問はずっと胸を渦巻く。
新選組を、芹沢鴨を嫌っている理由を知れれば何か分かるかもしれない。新選組が今までしてきたことを知りたい。
「おう、前川。長州藩士を捕縛したそうじゃねぇか」
「原田さん、巡察お疲れ様です」
背の高い10番組組長である原田左之助が前川の進む先からこちらにやってくる。話しやすい印象を持っている彼なら、と哀音のことをふせて話すことにした。
