背中を向け合い、前川が声を発す。
「誰だ、出てこい」
すると、3人の男―――茶色の着物に脇差しの刀が2本ささっている様子から武士だろう――が出てきた。
雪がしんしんと降り始める。
もっと降れ。体の芯まで冷え、凍えるほどに降れ。
"哀音"が動き出すために。
風が雪を飛ばして肌に冷たさを感じる。
「新選組の仲間じゃ、殺せ!」
あの訛り。
男らが刀を抜いた。それに次いで前川も刀を抜いた。哀音も短刀を構える。
『愚かな人間に教えてやっただけじゃ、早う金を出した方がええぞ?』
どくん……心臓が大きく1つ鳴った。
この男らは間違いなく、あの訛りの持ち主であいつらと仲間だ。
だけどわからないのが、仲間である芹沢鴨が局長をしている新選組の人を殺そうとするのか。芹沢鴨が裏切ったからか。
分からないことだらけだ。それを思うと、前川の交渉に応じた方が良いのかもしれない。
背中合わせにしている相手に目をやると、彼が口を開いた。
「殺すな、捕縛する」
ふっ、と笑うと哀音も答える。
「無理な相談ですね、相手は刀を抜いている。殺さなければやられます」
「新選組の時は出来たのに、か?」
「新選組に協力する義理はありません。それに、一人で十分でしょう?」
「そういうな。…最悪一人だ」
前川の返事に口元に笑みを残しながら、男に目を戻す。
刃をわずかに傾けると、大粒の雪がついて溶けた。
背中を預けているのが新選組の隊士というのは癪に障るが、すぐに終わらせれば良いだけだ。
男が1人、哀音に向かって走ってくる。新選組の仲間だと思われているかと思うと。
