-アイネ-





死ぬことに対して覚悟は出来ているのに、退く覚悟はないのか。





知るということは、色々なものを失くす可能性があるということ。物だったり志だったりするものだが、前川の場合"武士"を失くすことになるのだろう。









武士の家を出ていなくても武士として生きられる新選組は、嫌われている半面入隊志願をする民も少なくない。










「では、私はこれで」






「っ、哀音!お前は本当に知っているんだな?もし偽りでないのなら、私にも考えがある」





去ろうと横を通り過ぎる。どうせ覚悟がないのだから、聞く耳を持つ必要はない。










「私が知り得る新選組……または芹沢局長の情報をくれてやろう。その代わりに、哀音の知っていること全て教えてくれ」












足を止めて、前川の言ったことを頭の中で繰り返す。



情報がもらえる、しかも新選組の人間から。これは得する事以外のなにものでもない。




ただ、代償が大きい。哀音の生きてきた歩み
話さなければならない。思い出すだけで、苦しみや悲しみが体を蝕むのに、口に出して話さなければならない。








哀音という人斬りになった経緯も、聡い前川ならすぐに分かってしまうだろう。










「私なりの覚悟だ」








前川の低い声は、本気だった。



覚悟を決めた、それを示すために切腹を命じられるかもしれないことをするのか。
ただ者ではないと確信を持った哀音は低い声を出した。