沈黙を破り、冷静に努める前川の瞳が揺れる。恐れがあるのだ。
自分は芹沢鴨に従って行動している身、これから哀音が真実を話すとしたら受け入れられるかどうかも分からない事に。
勿論哀音が見逃すはずもなく、自分の境遇を敵(かたき)である新選組の人間に話すつもりはさらさらなかった。
話したら新選組を内部から壊すことが出来る――かもしれない。
"かもしれない"ことに賭けて、今まで積みあげてきたものを崩すのは抵抗があった。
「芹沢鴨の汚くて卑劣な所を知っています」
「あの人は確かに横暴でやっていることは滅茶苦茶だ。だが局長には裏がない。態度は一切変わらぬ」
「……そう思っているのなら」
この人は結局、そこらの隊士と変わらない、疑うことを知らない赤子のような人だ。
境遇を話したところで無駄だっただろう、話さなくて良かったと思う。
「何故私に聞いたのですか?あなたはあなたの目で見たものを信じれば良い。私は私自身の目で見た、聞いたものを信じて動くのみ。
お互いにぶつかる時が必ずやってきますが、私は説得されるつもりはありませんから」
「私は、知りたいのだ。裏がない、それは果たして本当なのか。説得なぞしない。ただ、本当のことを知りたいだけだ」
「知って、どうするの?新選組を退く覚悟があるんですか?」
「………」
