「殺しておけば良かったと、後悔はしました。でも私の信念は違いますから。それに…訛りがありませんし」
どこまで話そうか―――お互いに気を張って腹を探る。
前川は不思議そうに、訛りという単語を繰り返した。
答えるつもりはなく、しばしの沈黙が訪れる。風の音が大きくなっている。
前川は寒空の下にさらされているが、顔をしかめることも寒そうに身を震わせることはない。
1歩でも哀音に近づけば、哀音は懐に隠した短刀を迷うことなく向けるだろうし、哀音も1歩でも前川に近づけば、前川は腰に差した刀を向けてくるだろう。
一瞬でも隙を見せればそこを突かれる。
だが、どこか哀音は余裕を持っていた。前川は知りたいことを知るまで、哀音を捕縛することは出来ない―――もし刃を交えることになったとしても前回哀音の方が優勢だった、それが自信に変わっているのもあり、さほど焦りは感じていなかった。
あの人(師匠)に教えてもらった剣術や身のこなし方を極めたのだ、そう簡単にやられはしない。
「哀音、信念だから芹沢鴨に会いにいく、とはどういう意味だ。お前はあの人の何を知っている」
