振り返り、名を呼んだ人物に目をやると心臓が大きく音を立てた。
鋭い目にこのまま捕まってしまうのではと心配になる。
がっしりとした肩に鋭い目は相変わらずで、真面目な印象も変わらない。
「こんにちは、新選組の隊士さん。一度お話した程度で名前を覚えることが出来るなんてさすがですね」
「一度だけなら覚えられない。愛音が哀音だから、覚えただけだ」
哀音が微笑みを見せても前川の表情は全く変わらなかった。
やはり、顔は覚えられていた。確信を持っていて、かわすことは難しそうだ。
辺りが薄暗くなり、僅かに雪が降る。人の足は遠のき、響くのは二人の声。
「そう。1つ問います。何故私を捕まえなかった?捕まえれば手柄になるのでしょう」
「私の知らないことを、お前が知っていると思ったからだ。捕縛してすぐ投獄されては困る」
「なるほど」
「ではこちらからも問う。何故、殺さなかった?」
