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――ベンッ…ベベンッ
乾いた音が作る曲は、優しくて包み込んでくれるようだ。
閉じていた目を開けると、襖の隙間から光が漏れていた。
「んん……」
体を起こすと、かけられていた掛布団が落ちた。目をこすって重い瞼を開けようとしながら、襖の隙間から中を伺った。
見慣れている背中に襖を少し広げて中へと足を踏み入れた。
「おかあさん…」
「あら、起こしちゃったかしらね。あなたも楓も三味線の音につられるのは分かっていたんだけど、ごめんね」
「え?」
「んん…おかあ、さん」
母がにっこりと笑うと、後ろで声がした。
振り返ると楓も同じように目をこすって入ってきた。
「ねぇ、なんで分かったの??」
「ねえね……おかあさん…」
おぼつかない足取りで近づいてくると、ぎゅっ、と抱きついた。
母が笑ったまま答えてくれる。
「簡単だわ。二人共三味線の音が大好きなんですもの」
「だっておかあさんの三味線はとっても綺麗なんだもん。それに三味線の音っていろんな声をだすんだよ!」
「かえでも、さみせん好き!おかあさんのも、ねえねのも!」
楓が口角を上げてにっこり笑う。
母が三味線を鳴らした。
――ベンッ…
1音だけなのに、こんなにも幸せな気持ちになる。
楓と一緒にもっと、と強請れば母が作った曲を演奏してくれる。
と、襖が開いて父が顔を出した。
