「1曲演奏致しましょう」
しっとりと歌い上げる三味線に哀音は思う。
遊女もまた、哀れな生き物だと。
必死に生きるために、身を滅ぼす仕事をし、嘘を吐きそして夢を売りながら彼女もまた夢を見る。
「愛音も、話をしてくれんか」
「私の話は何の面白味もございません」
「堅いんやな。わては愛音の話が聞きたいんや。面白いかどうかなんて気にしん。
例えば…何で町で三味線を演奏しようと思ったのか」
「……とうの昔に忘れてしまいました。気づけば三味線を奏でていましたから」
「三味線が、好きなんだな」
「…好きでした。乾いた音も、弦を弾く瞬間も、人が笑ってくれるのも全て。ですが今、そんなものどうでもいい。一つの道具に過ぎないのだから」
三味線は目的を果たすための道具にすぎない。
好き、嫌いではなく演奏が出来るから利用するだけ。
哀音はそう思って行動している。
幾つかの曲を演奏したあと、店を出た。
