「いた、の方が正しいのかもしれませんね」
口の中で呟いて瞬きを繰り返した。
「いた…?」
「小椋様、楓の着物を贈ろうとしている方と、哀音は女だと思わせた方は同じ方でしょう?」
突然話を振られ返事が遅れたが、小椋は頷いた。
「ほんにかいらしい子や。子犬のように真ん丸とした瞳に垂れた目が愛らしい。老いぼれはその子に…惚れている」
幸せそうに、だけど苦しそうに話している。
着物を見ている時と同じ目だった。
「叶わん夢だ。いつか覚めぬ夢をこの手に抱いてみたいが……贅沢だろう」
「贅沢?」
「健気で素直で…まっすぐに生きてきた子と添い遂げようとするなど、贅沢でしかない」
まるで言い聞かせているようで、瞳の奥には焔のように燃えさかる火が見え隠れしているのに、必死に水をかけ消そうとしている。
島原は夢を買う、売る場所。
夢を売る女達はこの人を見て、なんと声をかけるのだろうか。
「そんなことはありません、私の心は貴方のものです」――そのようなことを口にして弄ぶのだろうか。
嘘偽りの言葉で人を喜ばせることが仕事だから。例え本物でも、本物を嘘にしなければならない所だから。
